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ブログし~幸せなペットを増やすために~

2020.03.18  13:36

第4回シェルター・メディシン・セミナー「より良い譲渡に向けて」 第2部 動物行動学、シェルター・ガイドライン、ディスカッション

2019年12月8日(日)に行われた第4回シェルター・メディシン・セミナー第2部では、アメリカ獣医行動学専門医の入交眞巳先生と、シェルター・メディシンおよび災害獣医学を専攻する田中亜紀先生が登壇されました。初めての試みとなるディスカッションの模様も合わせてお伝えします。

「動物行動学」について/入交眞巳先生

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[アメリカ獣医行動学専門医 入交眞巳先生]

まずは学習理論をテーマに、動物の問題行動への向き合い方や解決するために必要な知識についてお話していきます。

■動物の問題に対処する方法

動物のさまざまな問題へ対処するためには、「馴化」が必要になります。馴化とは、弱い刺激に馴れさせる方法です。タクシーに乗って芳香剤のにおいがしても、しばらくすれば気にならなくなると思います。私たち動物の脳は弱い刺激に曝露されていると、「これは危険ではないから無視していい」と判断するからです。

逆に強い刺激に晒し続ける方法が「洪水法」です。クモが嫌いな人をクモだらけの部屋に閉じ込めるような方法で、大きなストレスを与えることになり、さらに悪化させる危険があります。

■条件付けで「馴化」を行う

1.脱感作
苦手な刺激を少しずつ加えて馴れさせる方法です。たとえば怖いオバケが遠くからあなたに少しずつ近づくことで馴れるわけです。脱感作だけでは馴れさせるのが難しいので、拮抗条件付けも使います。

2.拮抗条件付け
怖いものを条件付けで楽しいものに変えていく方法です。もしオバケが一万円札を投げながら近づいてきたら受け入れやすいと思います。「オバケ=怖い」から「オバケ=一万円札」と印象を変えるわけです。でもオバケがどんどん近づいてきたら一万円札を持っていても怖いでしょう。拮抗条件付けは少しずつ馴れる脱感作と組み合わせていきます。

3.古典的条件付け
「パブロフの犬」の実験で明らかになった、何かを予測する刺激を与えると生理反応が起きることです。雷恐怖症の犬は古典的条件付けのことがあります。雷を予測するような強い風が吹いたらおもちゃを投げたりする拮抗条件付けを使っていきます。

4.オペラント条件付け
ある刺激があって動物が行動することで結果が出て、その結果によって動物の行動が変化することです。たとえば新しいレストランができて(刺激)、行ってみて(行動)、安くておいしかった(結果)ので、頻繁に行く(行動が変化)ようになります。このように行動の発現頻度が上げることを「強化」と言います。もし高くてまずかった(結果)ので、絶対に行かない(行動が変化)ようになります。行動の発現頻度が下げることを「弱化(罰)」と言います。
強化と弱化(罰)に正(加える)と負(取り除く)を組み合わせた4種類がオペラント条件付けになります。罰の次には正しい行動を教えることも大切です。

・正の強化(陽性強化)
何かを加えることで動物の行動の発現頻度を上げることです。たとえば人が「オスワリ」と言う(刺激)、犬が床におしりをつける(行動)、おやつをあげる(結果)、おしりをどんどんつけるようになる(行動が変化)というわけです。

・正の弱化(罰)
何かを加えることで動物の行動の発現頻度を下げることです。たとえばある行動をしたときに心身に痛みを与えていれば、動物はその行動をしなくなっていきます。しかしこの方法を使うべきではありません。

・負の強化
何かを取り除くことで動物の行動の発現頻度を上げることです。配達員が来る(刺激)、犬が吠えるO行動)、配達員が帰る(結果)、さらに吠えるようになる(行動が変化)というように、犬の問題行動は負の強化で学習していることが多いかもしれません。

・負の弱化(罰)
何かを取り除くことで動物の行動の発現頻度を下げることです。たとえば犬の無駄吠えに対して無視することです。

■ディスカッション

以前のセミナーで「施設で起きている個別の問題を相談したい」という声が多かったので、Q&Aの形式で個別にお答えしていきます。

CASE 1 施設に成猫が多く、シャイなので譲渡まで時間がかかる
・新たな飼い主にトレーニング方法を伝えて譲渡する
・施設で馴化のトレーニングを行うと何年もかかってしまうので、新たな飼い主に最初はケージで飼育することやトレーニング方法を伝えて譲渡する
・トレーニング方法は、飼い主が部屋にいるときに食器に大好物を入れて与える(拮抗条件付け)など

CASE 2 猫がケージを移動するとストレス行動が起こる
・GABAレセプターに作用する薬やサプリメントを移動の30分前に飲ませる
・酔っぱらったような状態が3時間ほど続くので、その間に移動を済ませる
・薬は獣医師でなければ処方できず、副作用にも注意が必要だが、サプリメントは獣医師以外の人も入手できる

CASE 3 他の犬への攻撃性が強い犬をどうするか
・攻撃性の原因を鑑別して対処法を見つける
・病気、経験、社会化不足、早期離乳などが攻撃性の原因になるため、特定して対処していく
・多頭飼育の家庭には譲渡しないなど、配慮も必要になる

02

 

 

「シェルター・ガイドライン」について/田中亜紀先生

03

[カリフォルニア大学ディビス校獣医学部疫学研究員/日本獣医生命科学大学助教 田中亜紀先生]

アメリカのシェルター獣医学会で公開している「シェルター・ガイドライン」は、動物福祉の「5つの自由」を基本としています。どんな施設、地域、国であってもシェルターの指針として使えるものです。厳密な数値基準があるわけではありませんが、推奨することから許容できないことまで項目が分けられています。

・記録
施設の管理のためには記録が重要です。データを収集して客観的に見て評価をしていくことが大事です。

・身体的・行動学的な健康を維持する
病気の有無だけでなく精神的にも良い状態を保てるように飼養していきます。シェルターメディスンの知見を取り入れ、トレーニングを行うことが動物福祉につながります。

・施設の設計と環境
動物が主に過ごす場所(収容空間)を整備します。自然に体位を変えられ、その際には体が周囲に触れないくらいの十分な空間が必要です。動物が自分の意思で外を見たり、隠れたりすることができるようにします。トイレ、排泄場所、寝場所、食事場所は50cm以上(猫は垂直でも可)離したほうが良いとされています。

・身体的・精神的な刺激
猫は爪とぎをしたり高いとこから見下ろしたりできるようにしましょう。犬なら屋内外のスペースもあるほうが望ましいとされています。

・床
エポキシ樹脂系など掃除と消毒がしやすく丈夫な素材を選びましょう。幼齢動物や感染の有無がわからない動物でも安心して管理できる素材です。

・温度・湿度
正常な体温を維持できる最適な温度設定は、猫の場合15.5〜26.5℃、湿度は70%程度が望ましいとされています。換気で新鮮な空気を取り入れることは感染症予防にも役立ちます。

※ 他にも詳細な項目があります。日本動物福祉協会のホームページで「シェルター・ガイドライン」が公開される予定と聞いておりますので、ご確認ください。

■ディスカッション

CASE 1 ボランティアが猫の個別管理をしてしまう
・まずは個別管理をする理由を聞く
・ボランティアに施設のルールとは違う個別管理をする理由を聞き、科学的に個別管理が良くないことを説明し、群管理を行うように伝える

CASE 2 アメリカでは動物看護師が安楽死を行う理由
・獣医師が少ないため動物看護師が行う
・アメリカでは大規模なシェルターでも獣医師が1人しかいないため、安楽死を実施する資格をもつ動物看護師が実施する
・安楽死の判断は獣医師が行う。

CASE 3 ワクチンを接種するタイミング
・シェルターに入る前に接種するのが望ましい
・病原菌の曝露前ならワクチンの防御率が90%、曝露後だと1%になってしまうので、シェルターに入る前に駐車場や受付で接種する
・接種される犬猫のストレスよりも、群管理としてアウトブレイクを防ぐのが最優先

CASE 4 長期飼育から看取りになる場合
・獣医学的な安楽死は必要
・行政のシェルターの場合、税金を使って飼育や治療を行うべきか考え、獣医学的な安楽死を検討する
・「殺処分ゼロ」を目指すため安楽死ができない場合は、看取りを行うボランティアに相談するのも一つの方法

CASE 5 接種するワクチンの種類
・シェルターではコアワクチンのみ接種する
・病原体を入れすぎると最も必要なパルボウイルスの抗体が上がらないため、コアワクチン(犬は5種、猫は3種混合ワクチン)に限る
・ストレスが多い状況で体に病原体を入れないほうがよい

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シェルター・メディシン・セミナーは令和2年度以降も継続予定です。開催の詳細が決まりましたら随時お知らせします。

 

 

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過去のセミナーもご覧ください。
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●平成29年度 Vol.3シェルター・メディシン・セミナー「より良い譲渡に向けて」 参加リポート
第2部 第2部 シェルター・メディシン —頭数管理の科学的知見—/田中亜紀先生
https://n-d-f.com/blog/topics/5512.php

●平成29年度 Vol.3シェルター・メディシン・セミナー「より良い譲渡に向けて」 参加リポート

第1部 譲渡を促進する科学/田中亜紀先生
https://n-d-f.com/blog/topics/5494.php

●平成29年度 Vol.2シェルター・メディシン・セミナー 「より良い譲渡に向けて」参加リポート

第2部 猫の行動学/入交眞巳先生
https://n-d-f.com/blog/topics/4769.php

●平成29年度 Vol.2シェルター・メディシン・セミナー 「より良い譲渡に向けて」参加リポート

第1部 感染症管理:感染症管理計画と重要感染症/田中亜紀先生
https://n-d-f.com/blog/topics/4704.php

●平成29年度 Vol.1シェルター・メディシン・セミナー 「より良い譲渡に向けて」参加リポート

第2部: 「犬の気持ちを理解するための犬の行動学」/入交眞巳先生
https://n-d-f.com/blog/topics/4516.php

●平成29年度 Vol.1シェルター・メディシン・セミナー 「より良い譲渡に向けて」参加リポート

第1部:「シェルターでの感染症管理」について/田中亜紀先生
https://n-d-f.com/blog/topics/4441.php

●平成28年度 シェルター・メディシン・セミナー3  郡山保健所における犬・猫の処分数を減らす取り組みについて
https://n-d-f.com/blog/topics/4088.php

●平成28年度 シェルター・メディシン・セミナー2  シェルターにかかわる動物行動学「シェルターに来させない、出戻りさせないために」
https://n-d-f.com/blog/topics/3891.php

●平成28年度 シェルター・メディシン・セミナー1 「シェルターでの群管理」「譲渡後に飼い主と動物が良い関係を保つには」
https://n-d-f.com/blog/spp/3804.php

●平成27年度 シェルター・メディシン・セミナー 「より良い譲渡に向けて」~災害獣医療、動物虐待、自治体からの報告~  その3
http://n-d-f.com/blog/spp/2681.php

●平成27年度 シェルター・メディシン・セミナー 「より良い譲渡に向けて」~災害獣医療、動物虐待、自治体からの報告~  その2
http://n-d-f.com/blog/spp/2659.php

●平成27年度 シェルター・メディシン・セミナー 「より良い譲渡に向けて」~災害獣医療、動物虐待、自治体からの報告~  その1
http://n-d-f.com/blog/spp/2634.php

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