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ブログし~幸せなペットを増やすために~

2020.03.11  13:21

第4回シェルター・メディシン・セミナー「より良い譲渡に向けて」 第1部 災害獣医学、シェルターでのボランティア活動、動物虐待、自治体職員からの報告

2019年12月7日(土)、8日(日)に、第4回シェルター・メディシン・セミナー「より良い譲渡に向けて」が日本獣医生命科学大学で開催されました。(シェルター・メディシン・セミナーは2年間で1クールとしていて、今回がそのクールの最後の回とのことです)
シェルター・メディシンおよび災害獣医学を専攻する田中亜紀先生、アメリカ獣医行動学専門医の入交眞巳先生、新潟県動物愛護センター職員の金子未央先生の講義を2部に分けてご報告します。

「災害獣医学」について/田中亜紀先生
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[カリフォルニア大学ディビス校獣医学部疫学研究員/日本獣医生命科学大学助教 田中亜紀先生]

最近は台風や地震などの自然災害に見舞われる地域が増えているので、災害時にシェルター・メディシンをどのように活用するべきか考えておきましょう。ボランティアの力も必要になるので、日本でも災害時にはボランティアとしての研修・認定システムを作ることが急務と言えます。

■災害獣医学の役割

災害獣医学の一番の目的は人の安全を最優先に守り、次いで環境を守ることで動物の安全につなげていくことです。「動物がかわいそうだから」という考えは、災害時の現場では通用しません。人と環境の安全のために獣医療が貢献できることを伝えながら活動していくべきでしょう。

「人の安全」「環境の安全」「動物の安全」を守るのが獣医学の役割で、この3つのどれも欠けてはならないため「One Health」と呼ばれています。ところがこの概念を知っているのは獣医師ばかりで、人の医療従事者の多くは知りません。社会に浸透させていくのも私たちの仕事だと考えています。

■平常時の問題が災害時に露呈

「One Health」の考え方では、災害時に動物への対策がなければ、人と環境も守れないことになります。平常時の問題が災害時にはより大きくなるため、事前にシミュレーションをし、対策を行うことが重要です。

たとえば飼い主の95%は同行避難を知っていますが、同行避難ができる避難所を知っているのは26%以下でした。「最低限のしつけをしている」と思っている犬の飼い主さんは90%にのぼりますが、オスワリができても吠える犬は珍しくありません。猫の飼い主さんの場合、避難するときを想定してキャリーに入る練習をしている方がどのくらいいるのでしょうか。

また、飼い主のいない動物や飼育放棄される動物の問題は平常時からありますが、災害時にはこの予備軍だった動物まで一気にシェルターに来ることになるでしょう。災害時にシェルターでこの問題を解決するよりも、平常時に動物病院や家庭で対処し、未然に防ぐことが重要です。

■シェルターでの群管理とボランティアの一時預かり

事前に対処していても災害時にシェルターで混乱が起きるのは当たり前ですが、少なくとも「収容する動物」「収束地点」「所有権」は定義してから管理を始めるべきです。一時預かりを依頼できるボランティアも確保しておきたいものです。

・シェルターで収容動物全体を管理する
動物病院の患者とは違い、収容動物全体を群として健康管理を行なっていきます。動物の出入りが激しい状況などが感染のリスクファクターになるため、ストレスや衛生の管理、施設の設計やエンリッチメントも合わせて行います。

・ボランティアに一時預かりを依頼する
アメリカでは災害が起きると獣医療関係の大学生1000人以上に対して、被災した動物の一時預かりボランティアを募集するメールが送られます。シェルターは費用も人手もかかるうえ動物の心身の健康にもよくありません。日本でもボランティアの育成が課題でしょう。

「シェルターでのボランティア活動」について/田中亜紀先生

シェルターで一時預かりのボランティアを育成するためのプログラムを作成しましょう。アメリカではこのプログラムを受けていなければ、たとえ獣医師でも受け入れてもらえません。

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■ボランティアプログラムを始める

施設に合わせたルールを作り、希望者には動物を守るための教育と、システマティックに動いてもらうためのトレーニングを積んでもらいます。

①オリエンテーションを行う
募集条件、必要条件、トレーニング内容、申込書、同意書を作成し、一時預かりボランティアの希望者を募ります。

②一時預かりの環境を確認する
希望者への家庭訪問を行い、脱走防止や室温管理の状況などの環境を確認するのが理想です。もしペットがいれば他の動物との適性や健康状態も確認します。

③同意書を交わす
シェルターが決めたルールに反したときはやめてもらうことを組み込んでおきます。
※同意書の例(日本動物福祉協会)
https://www.jaws.or.jp/wp-content/uploads/2019/01/547f01ce4cfe1bae9f98b03ac314edc7-1.pdf

④トレーニングを行う
シェルターでの作業(手洗いの遂行、動物の出し方、散歩のやり方など)を教え、動物に関する知識や一時預かり中に起きる問題への理解を深めるトレーニングを行います。誰がやっても同じ結果になるよう、システマティックに動いてもらうことが重要です。

⑤一時預かりに適した動物を渡す
8週齢未満、軽度の外傷・疾患で治癒・譲渡可能、軽度の問題行動で修正可能な動物です。

■一時預かりボランティアの利点

家庭での集中した世話ができ、動物にもストレスが少ないことが利点です。過密な状況ではないので感染症疾患の危険が少なく、社会化を進めたり安楽死を防いだりすることもできます。ただし子猫は体調が変わりやすく急死することもあることを、ミルクボランティアには伝えておきましょう。

シェルターでの滞在時間が長引くほど感染症などのリスクが高くなるので、早期に預かりに出せれば健康な状態で育ちます。カリフォルニアのシェルターでは、8週齢未満の子猫が持ち込まれた場合、シェルターに入れずボランティアに連絡してそのまま預かりに出します。

シェルターに協力してくれるボランティアのモチベーションを維持することも重要です。ボランティアをやめた理由は、「何をやればいいのかわからなかった」という声が最も多いことがわかっています。ベテランによる定期的な勉強会を行う、マニュアルを作成する、適切な仕事を適切な人に依頼する、といった工夫を心がけましょう。

「動物虐待」について/田中亜紀先生

「動物の愛護及び管理に関する法律」が改正され、動物虐待が厳罰化されました。虐待が疑われる動物について私にも毎週問い合わせがあり、警察から直接連絡がくることもあります。不審死を解明するための法獣医学はまだ発展途上ですが、今後研究が進んでいくでしょう。

動物病院に虐待が疑われる動物が来院しても、獣医師や動物看護師は身の危険を感じるなどの理由で通報しないこともあるでしょう。動物虐待と判断するのは警察、検察、司法関係者なので、もし疑いがあれば警察に報告しましょう。反社会行為を見逃さないことがその地域を守ることにもつながります。

「新潟県における猫の譲渡事業とその改善」について/金子未央先生
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[新潟県動物愛護センター職員 金子未央先生]

新潟県動物愛護センターは平成24年4月にオープンしました。当時は施設への期待感から犬猫の引き取り頭数が激増し、それに伴う問題も起きてしまいました。そこでシェルター・メディスンをもとに「健康な状態で入ってきた動物は健康な状態のまま、速やかに譲渡する」と目標を設定しました。施設での飼育頭数も100頭を上限として、以下の飼育改善方針を策定しました。

■飼育改善方針

1〜3は基本的に収容時に判断しています。この方針を打ち出してから、平成27年度には譲渡数が殺処分数を逆転し、収容数も減少傾向にあります。

1.猫の飼育判断基準
300g以上かつ自力で栄養を摂れる、人に馴れていることを前提に、血便や嘔吐などの症状がなく感染源にならないことを確認して受け入れを判断します。

2.感染症リスク区分
猫を感染リスクごとに5色に分け、リスクの少ない猫から世話をします。

3.飼育継続と判断した猫の処置
寄生虫駆除や3種混合ワクチン接種、爪切りを行います。

4.譲渡する猫の判断基準
原則として3日間経過観察期間をおき、健康状態を確認してから譲渡します。生後56日齢以上、800g以上としています。

5.飼育管理方法の見直し
感染症予防のために世話の方法や消毒の徹底などをマニュアル化。また、ストレス低減のためにケージを移動しないことなどを心がけています。

■ミルクボランティア事業

平成27年11月からミルクボランティア事業を始めました。上記の「①猫の飼育判断基準」に満たない子猫を一般家庭に預け、800gになるまで育ててもらう取り組みです。現在41名が登録し、依頼頭数は752頭になります。事業は以下の流れで行っています。

1.収容後、ボランティアに預けることができるか判断
300g(生後3〜4週齢)以上で、自力でウェットフードが食べられる健康状態が良好な子猫は、当日にボランティアへ預けることにしました。

2.ボランティア宅での対応
健康手帳で給餌量や体重、トイレの回数などを管理してもらい、社会化を進めます。この間もセンターと連携しながら管理します。

3.センターに戻って譲渡へ
800g以上に育ったらセンターに戻してもらい、治療室で健康状態を確認してワクチン接種後、ただちに飼育室へデビューさせます。

平成28年5月から人に馴れていない成猫のための「未馴化成猫の馴化の取り組み」を始め、効果を挙げています。動物愛護行政は行政職の中でも結果が見えやすいので、施設とボランティアでできることから始めていくことが大切ではないでしょうか。
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次回は、入交眞巳先生と田中亜紀先生による第2部「動物行動学(実践編)、シェルター・メディスン(実践編)」をご報告します。

 

 

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過去のセミナーもご覧ください。
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●平成29年度 Vol.3シェルター・メディシン・セミナー「より良い譲渡に向けて」 参加リポート
第2部 第2部 シェルター・メディシン —頭数管理の科学的知見—/田中亜紀先生
https://n-d-f.com/blog/topics/5512.php

●平成29年度 Vol.3シェルター・メディシン・セミナー「より良い譲渡に向けて」 参加リポート

第1部 譲渡を促進する科学/田中亜紀先生
https://n-d-f.com/blog/topics/5494.php

●平成29年度 Vol.2シェルター・メディシン・セミナー 「より良い譲渡に向けて」参加リポート

第2部 猫の行動学/入交眞巳先生
https://n-d-f.com/blog/topics/4769.php

●平成29年度 Vol.2シェルター・メディシン・セミナー 「より良い譲渡に向けて」参加リポート

第1部 感染症管理:感染症管理計画と重要感染症/田中亜紀先生
https://n-d-f.com/blog/topics/4704.php

●平成29年度 Vol.1シェルター・メディシン・セミナー 「より良い譲渡に向けて」参加リポート

第2部: 「犬の気持ちを理解するための犬の行動学」/入交眞巳先生
https://n-d-f.com/blog/topics/4516.php

●平成29年度 Vol.1シェルター・メディシン・セミナー 「より良い譲渡に向けて」参加リポート

第1部:「シェルターでの感染症管理」について/田中亜紀先生
https://n-d-f.com/blog/topics/4441.php

●平成28年度 シェルター・メディシン・セミナー3  郡山保健所における犬・猫の処分数を減らす取り組みについて
https://n-d-f.com/blog/topics/4088.php

●平成28年度 シェルター・メディシン・セミナー2  シェルターにかかわる動物行動学「シェルターに来させない、出戻りさせないために」
https://n-d-f.com/blog/topics/3891.php

●平成28年度 シェルター・メディシン・セミナー1 「シェルターでの群管理」「譲渡後に飼い主と動物が良い関係を保つには」
https://n-d-f.com/blog/spp/3804.php

●平成27年度 シェルター・メディシン・セミナー 「より良い譲渡に向けて」~災害獣医療、動物虐待、自治体からの報告~  その3
http://n-d-f.com/blog/spp/2681.php

●平成27年度 シェルター・メディシン・セミナー 「より良い譲渡に向けて」~災害獣医療、動物虐待、自治体からの報告~  その2
http://n-d-f.com/blog/spp/2659.php

●平成27年度 シェルター・メディシン・セミナー 「より良い譲渡に向けて」~災害獣医療、動物虐待、自治体からの報告~  その1
http://n-d-f.com/blog/spp/2634.php

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